黒 田 天 狗
■■住所 : 福岡市中央区六本松4丁目9−36
■■電話番号 : 092-771-2285
■お店の沿革
お店はおよそ25年前から。お店を切り盛りするのは、大将の古賀義信さん。「黒田天狗」屋号の由来は、「当時はそんなのが流行っていたから」だそう。「なんとなく語呂がいいでしょう。「黒田」は「黒田藩」から、「天狗」は縁起いいものくらいでつけました」。ただ、開店の折には、「六本松はやめとけ。あそこで商売するのは厳しいぞ」と多くの人に忠告を受けた。六本松は、「学生の街」。客層が安定しないことはもちろん、学生=金がない、そんなイメージが当時は強くあったという。特に、「九大入るとなれば、小さい頃から塾に通ったりでお金がいるから」「九大生は勉強が忙しくてバイトができない」「バイトしてれば卒業できない」と、「九大生=貧乏学生」の時代だった。それでも、「学生だけが客じゃない」と、六本松でお店を始めることを決意。開店当初から、さほど九大生は多くはなかったという。「学生さんには学生さんの居場所があるから」と語る大将。けれども、学生に話を聞けば、新歓コンパやサークルのコンパでお店を利用したという者も少なくない。安くて美味しい焼き鳥やバラエティに富んだサイドメニューは、これまで多くの学生のお腹を満たしてきた。また、広く温かな照明がもれる店内は、どこか「ふるさと」を思い出させるものがある。大将の柔らかくも、どこか厳しい表情には、これまで多くの学生を迎え、送り出してきた「父親」の顔を感じることができる。
■メニュー
およそ30種類に渡る串焼きは、80円〜という良心的な価格。特にお勧めのメニューは、「ミソブタ(150円)」。肉と肉の間に味噌が丹念に塗りこんであるため、油のギトギト感がなく、「バラ」が嫌いな人でも、さっぱりと食べることができる。特に、女性にはお勧めだそうだ。「合鴨つくね(150円)」など、ちょっと変わった串焼きも安心して楽しめる。その他、どの料理も学生の懐に優しい価格。注文した「焼きおにぎり」は、学生の数にあわせて、お醤油で丹念に焼き上げてくれる。なんとも香ばしい、愛情たっぷりの一品だ。しかし、黒田天狗のおすすめは何より「裏メニュー」。お金のない学生のために、大将やおばちゃんの作る「裏メニュー」には、これまで多くの九大生がお世話になってきた。もちろん、採算度外視の温かいメニューだ。「焼き飯にしゃぶしゃぶまで、本当に色々作ってきました」。
お勧めメニュー「ミソブタ」150円
愛情たっぷり焼きおにぎり400円
■九大生との思い出
「鹿児島出身のべっぴんさん」だったというある女子学生は、九大フィルに所属しており、定期演奏会後は、必ずメンバーとともに黒田天狗に飲みにきていたという。「定期演奏会にまねかれたり、コンパのときは必ずここを使ってくれてね」。そんな彼女との出会いは、大学入学前、彼女が部屋を借りるために福岡に上京した折、父親とともに黒田天狗を訪れたことだったという。「飲みがてら、彼女の父親によろしくって頼まれてね」。その後、彼女は4年間お店に通い続けた。親元を離れ、不安と孤独でいっぱいだった彼女を見守ってきたもの、それが黒田天狗という「第二のふるさと」であった。そして、「今でも手紙が届くんです」という大将の優しい表情は、彼女にとって、このお店が大学を卒業した今でも「第二のふるさと」であり続けていることを物語っているように感じられた。
「5年間通い続けてくれた」という男子学生は、愛媛県、宇和島東高校卒業後、九州大学最難関ともいわれる航空宇宙工学コースに進学。しかし、大学生活はサークル活動一色、勉強以上にアイスホッケーに没頭した。「しっかり勉強せんと留年するばいって言っていたら、あいつは本当に留年しよってね(笑)、でもそのお陰で5年間も店に通ってくれることになった」。帰省したときには、郷土土産とともに店に足を運んでくれたり、結婚式には招待状を送ってくれたりと、大学を卒業した今でもかわらずに「ただいま」とここに帰ってきてくれる大切な九大生の一人だと大将は語る。「たった4年間やで。おとなしく勉強だけしてないで、いろんな人と会話して、クラブ活動をしてほしい」。それが大将の願いだ。
それから、昨年卒業をしたという法学部の6人の学生のことは「絶対に忘れられない」という。「腹へったーっていつも店にきてね。利益なんかもう度外視で、メニュー以外の料理でも何でも作ってあげました。ほっといたら自分たちのご飯がなくなるなんてこともしょっちゅうで。前のパートのおばちゃんが料理上手でね。新しい料理なんかもぱぱっと作って振る舞ってくれたね。しゃぶしゃぶなんかもしたね。」
お店でパーティーを開いたこともあった。「パーティーするけん、なんか作ってくれ」という学生の要望に、その時には既に店をやめていたパートのおばちゃんを呼んで料理を作ってもらった。その時に撮った集合写真は、それぞれの住所に一通一通、封筒に入れて郵送した。「大将、届きましたよ。すごく嬉しかった。有難うございました。」と学生からは毎日のように電話がかかってきたという。「でも、そう言ってもらえたことが何より嬉しかった。こちらこそ、ありがとう。」
「なぜそこまで?」というこちらの質問に、大将は迷わずに「親心」と答えた。大将を取り囲むかのように学生6人の並んだ、卒業間近、最後の最後の集合写真。大将は、その写真を今でも白い封筒の中に入れて、大切に大切に保管している。
それから、心配ごとがひとつ、「あいつら、通ったんかなぁ」。店に通う学生の中には、弁護士や大学院進学を目指す学生もいた。「通ったら絶対報告にくるけん」その言葉を大将は今でも忘れずにいる。「まだ報告にきてないってことは、受かってないんやろうね。みんな頑張れよ。」
■九大移転について
「九大がなくなったらやっぱり影響はあると思う」と、心の中ではもちろん心配。でも、決して口外したり、嘆いたりすることはないという。「いつまでも続けていく気でいる。卒業生が帰ってこれる場所であり続けたい。」それだけで十分だと大将は語った。「でもね、寂しいよ」これが六本松で九大生とともに25年間を生きてきた人の嘘偽りのない思いだ。■九大生へのメッセージ
「若い人と話すのはものすごく楽しい。おじさんと喋っていたらね、「それこないだもでた」っていう話題ばかり(笑)新鮮味がないのよ。若い人の考えを知りたい、意見を聞きたい」。しかし、「こちらがいくら誠意を示しても返ってこない人は返ってこない」。学生と居酒屋の店主の関係にしてもそれは同じことだと大将はいう。結局、人と人との関係は「両方の意思疎通」なのだ。「でも、両親と話すこともそんなにないでしょう。だから、こうゆう場所(=居酒屋)でのつながりを大切にしてほしい。10あるうちの10じゃない。10のうちの1でもいいから、そこで何かに気づいて「あぁ、明日からがんばろう」ってね」。「社会にでたら、当然のことなんて万分の一のことだと気づく。仕事をしていくためには、社会の流れに身を任せなければならないときもある。けれども、自分の芯だけは強くもって、目標を見失わないでほしい。芯がありさえすれば、それを誇示せずとも、きっと分かる人には分かってもらえるから。大成する/しないではなく、何かを貫くこと、そこに人の人間性って生まれるんだよ。」
そして、大将は「何かあったらいつでも戻っておいで」と最後に付け加えた。
六本松キャンパスは確かになくなります。しかし、この六本松の地には、これまで九大生が繋いできた多くの“絆”がありました。お金がなければ「おなか減ったー」、勉強に悩めば「留年だー」、就職に悩めば「もう逃げたいー」と。そして、そんな学生のわがままを温かくも受け止めてくれた大将やおばちゃんの存在。「変わっていくものもあるけれども、決して変わらないものもある」黒田天狗の25年間が、それを何よりも物語っていると思います。大将、今まで本当にありがとうございました。そして、私たち九大生の帰れる場所として、「黒田天狗」は変わらずこの場所にいつまでもいつまでもあってほしいなと思います。それが私たち学生の最後の最後のわがままです。