長 州 
■定休日 : 日祝日
■営業時間 : 11:00〜24:00

扉を開けて入ると、カウンター越しに厨房が見える。スピーカーからは「しゅっぽ、しゅっぽ、しゅっぽぽぽ」と童謡が流れ、ほんわかした気分になる。出てくるうどんは「手打ち」。とってもおいしくて、ご主人が手打ち麺を作っている様子、女将さんがおかずを作っている様子を見ながらお腹いっぱいになると、「もうここで眠ってしまいたい」と思えるような温かい雰囲気が漂う。
馬屋原(まやはら)哲さん、満子さんにお話を伺った。「長州」はご主人が山口出身だからだそう。

馬屋原哲さん、満子さん

■お店の沿革
 現在の場所に開店したのは昭和60年3月20日。その前には少し離れた場所で5.6年営業していた。ご主人が脱サラし、修業に行かれたところが「手打ち」で、現在の手打ちうどんを作るようになったそうだ。開店当初、学生は少なかったが、夜にサークルが終わってから来る学生が増えるようになったという。
初めは西新でお店を開こうとしていたそうだが、偶然条件の良かった六本松にした。「良かったですよ、ここ。今となってはすごく良かった。」そう話すおじさんの笑顔を見ていると、「ここに通った学生さんも同じこと思うだろうなぁ」と思った。
■激辛軍団
 メニューにはすごく辛いと言われる「キムチうどん」がある。これにまつわるエピソードは絶えないようだ。
 お店に入ると座って注文もしない先生。必ず「激辛」なので、注文をとる必要がないという。独身時代から通われていたそうだが、今は時々奥さん、子どもさん3人と一緒にやって来る。一時期、南極に行かれていたことがあり、その時には袋いっぱいにお店の唐辛子を持って行った。「好きなものは持って行きたいという感覚なんでしょうね」とご主人は嬉しそうに言う。
 舞踏研究会は「激辛軍団」。4月、新入生は、先輩に無理やり「キムチうどん」を食べさせられていたそう。余りの辛さに、店を出てから「わー」と叫ぶことも。この日も偶然、隣にすわった男子学生が舞踏研究会だった。昔は、「激辛キムチを全部食べることができたらタダ」としたり、そのうちそれに時間制限を付けたりしていたそうだが、完食者続発でやめてしまったという逸話もある。

激 辛 !

■卒業しても…
 卒業しても足を運ぶ卒業生は後を絶えない。
 熊本からバイクで来ている人、何年ぶりかにお土産を持って訪れる人…数日前も赤ちゃんが生まれたという電話が来た。最近は、もうすぐなくなってしまう六本松キャンパスを見ようと訪れた人が、長州にも足を運ぶという。「ここで食べている人がいて、私は憶えているから声を掛けたらすごく喜んでくれました。」と女将さん。何年かぶりに訪れても卒業生の顔がわかるなんて…卒業生はびっくりするし、とっても嬉しいだろうなぁ。
 
■メニュー全制覇
 お二人が「特筆すべき人」と話す人がいる。
 昨年春に卒業したブラスバンドの男子学生は、2年間ほぼ毎日通い、メニューを全制覇した。Gコンビ一つだけでも、「丼は並、うどんは大盛り、味噌汁は豚汁に…」というように組み合わせはたくさんある。箱崎に行っても長州に来ていたそうだ。

■絵
 「美術部の学生が書いてくれた絵がありますよ。」と言って、奥から持ってきてくださった。「もう大分前になりますよね」とお二人は顔を合わせる。「こっちは切り絵なんですけど、私が『馬がうどんを食べてる絵を描いて』って言ったら、すらすらっと描いてくれたんですよ。」昔は、左側におすすめメニューを書いて、表に飾っていた。
■思い出は絶えない
 「すごく嬉しかったのが…」と女将さんが話すのは、何年も通っていた学生のこと。公認会計士を目指し、毎日のように来ていたという。昨年めでたく合格。「本当に嬉しかったですよ、美術部の人なんですけどね。」自分の子どものことのように女将さんが話す姿を見て、女将さんに思われて幸せな卒業生はたくさんいるんだろうなぁと感じた。
 学祭やコンサートに誘われても、お二人は時間がなくて行けないため、九大フィルが出張演奏に来てくれたこともあった。弦楽器だけの4,5人での演奏だった。「今はもう、35,6歳でしょうね。」
■学生の変化
 「集団行動がなくなった」とお二人は口をそろえて言う。長州に訪れる学生も減ったそうだ。昔は、柔道部、演劇部、混声合唱団、マンドリン、弓道部が決まって訪れていたが、ここ最近は減った。書道部が最後まで来てくれた。部活生が訪れる少し前には、「もうそろそろ」と思い、仕込みをそれに合わせて始めていたという。「昔の学生は大人数で来ていました。先輩が連れて来るって感じでしたよね。」決まった曜日に「もうそろそろ来る」と思われていたお二人の習慣がいつしか途絶えてそれが当たり前になってしまったことを思うと、なぜか悲しくなる。
■3月で…
 今のご主人と女将さんは、今年3月でお店を引退される。六本松キャンパス閉鎖と偶然、同時期になった。「一つ一つを言えばね、いっぱい出てきますよね、思い出が…。九大のおかげです。」卒業生の第二の故郷でもあるこのお店にこれから訪れる人は、寂しくなるだろう。でも、お二人はいろんな人とのあらゆる思い出を忘れていない。
■メッセージ

 「活躍してほしいです。九州の代表ですから。頑張ってください。」


お二人はどんなお話でも昨日のことのように語る。最近の話だと思って聞いていると、10年も前の話だったりする。「いつだったかねぇ?あれは?」と仲良く話す姿が見られなくなる。でも、4月から店長になる方がうどんを作られる姿を見つめながら、「また新しい歴史が刻まれるんだろうなぁ」と感じた。

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(C)2008 箱崎九大記憶保存会