三 和 書 房
■■住所 : 〒810‐0044 福岡市中央区六本松2丁目5‐2
■■電話番号 : 092‐741‐6125
三和書房(古本屋)2代目店主・吉田茂雄さん
棚の端から端まで、隙間なくぎっしりと詰まった本の数々。並べきれない書物は、店内のあちこちに積み上げられている。さて、どれから手にとってみようか。この贅沢な悩みを解決するには、時間がいくらあっても足りないようだ。 昔ながらの「古本屋らしさ」を今でも守り続けている三和書房は、吉田茂雄さんのお父様が初代店主となって、昭和23年にここ六本松2丁目で始まった。1代目店主が他界された平成元年に、吉田さんが2代目としてお店を継がれたそうだ。
■花田俊典先生との思い出
九州大学にまつわる思い出は、とお尋ねすると、まず九大大学院教授であった故・花田俊典先生と、とても懇意な間柄だったことを挙げてくださった。福岡市・天神の同市文学館の開設に尽力され、人望も厚かった花田先生だったが、九州大学比較文化社会研究院(*1)にて教鞭をとられていた平成16年(2004年)6月2日、53歳という若さで急逝されてしまった。
近現代日本文学を専門とされていた花田先生は、週1,2回というペースでお店に足を運ばれていたそうだ。先生が本を探されるときは、希望されるものを全巻仕入れて差し上げることもしょっちゅうだったとか。
「誰々の作品の第何版が欲しい、と指定されることもあったよ。その版には、当時の検閲の印が残っているからって。」
新品の本には表れることのない、時代の残り香を大事にされていた花田先生のご様子を、懐かしそうに語られた。
(*1)
旧教養部の流れをくむ、学際的な教育理念を持った大学院。1994年に九州大学大学院比較文化社会研究科として六本松で発足し、2000年に学府となる。
■田島寮の祭り
田島寮の樽神輿(*2)がちょうど店の前の道路を通るので、毎年見物するのを楽しみにされているそう。ただ、お父様がお店を経営されていた頃の田島寮生は、「もっと大規模で、大騒ぎだった」とのこと。「学生たちが黒人さんの格好をしたりしてね(笑)たくさんの人が見に来てたよ」
「今より昔の方が人数が多かったからね。今の学生は静かに(樽神輿を)やるね」
(*2)
九州大学田島寮寮祭のフィナーレとして、毎年初夏に行われるイベント。寮生たちがふんどし姿で神輿をかつぎ、天神から寮までの道のりを行進する。田島寮の閉鎖にともない、2008年7月5日に最後の樽神輿を迎えた。
■ビンボー学生
「昔の九大生はビンボーだったからね、自分の本を持ってきて、『新しい本と交換してくれ』って頼みに来るんだよ。『でも、その本は売らないで。金作ったら、絶対また取りに来るから』って言って」時には1冊の本を数人で貸し借りし合って、仏教の経典よろしく、一字一句を書写していた学生もいたとか。
「九大生は、金があったら遊びに使うよりも、読みたい本を買うという子が多かったね」路面電車が店の前を通っていた頃は、福岡大学の方からも学生がやってきていたこともあり、集客数はかなり多かった。また、当時は六本松の下宿代が比較的安かったので、学年が上がっても六本松を拠点として、路面電車で箱崎に通っていた学生もかなりいたそうだ。
■活字離れ
「最近の学生はあんまり(古本屋に)来ないね。じゃあ新品の本を買っているのかと思って、天神の大型書店とかに聞いてみるんだけど、あそこにも学生はそんなに来ないみたいだし」それは現代の若者が、活字を読まなくなったことの表れであると、吉田さんは考えている。
「今の若い子たちはネット上で文字は読んでいるって言うけど」彼らが読む活字には、ナマリ板で印刷した古本の活字のような、手作り感やあたたかみなどは無い、と言う。
例えば夏目漱石の作品の初版などのカバーは、きめ細かなデザインを印刷した紙を厚紙に貼って作られている。手間とコストのかかるものだが、古本というのは人の手でしか作り出すことのできない特別な「質感」を持っているのだと、吉田さんは信じている。
■最近の三和書房は
年配のお客さんしか足を運ばなくなっている近年の古本屋は、古書組合というものを組み、デパートやスーパーマーケットなどで古書展を開いている。昨年までは放生会の間に箱崎宮で古本市を開いていたが、今年からはその場所が結婚式場の控え室になってしまし、市を催すことができなくなってしまったそうだ。■九大の移転について
移転による影響は考えられるか、という問いに「関係ないと思うよ」と微笑む。「本を探し求める人は、どんなに遠くからでもやって来て下さるから」大学移転によって人が遠く離れてしまったとしても、今後の三和書房の経営には関係しないと考える。「ただ、年に何回か伊都キャンパスの方に古本を運んで市を開いたら、学生さんたちに古本の魅力を伝えることができるんじゃないかな、なんて考えてるんだけどね。今はネットで古本を買える時代だけど、現品を見て、手に取ってみることが古本屋の醍醐味でもあるから」と、茶目っ気たっぷりに斬新なアイディアまで披露してくださった。
■活字に飢えよ!
お話をうかがっている間に、吉田さんは「今は活字に飢える子が少ないね」と、幾度も繰り返していた。「小学生の頃から、テレビで授業を行ったり、ネットを授業の中に取り入れようなんて話も出てきてるみたいだけど、私はもっての外だと思うね。」
映像とは、ただひたすら人間の視覚の中に入ってくるものであり、流れていってしまうものだから、残らない。けれど活字であれば、そこには人間に想像力を喚起させる力がある。頭でモノを考えた人間は、その情報を整理して、しっかり認識することができる。
「活字っていうのは人間の文化の基本だからね。人は文明を残すために文字を作って、印刷術を発明した。」文化を支え続けてきた文字というものに、学生たちはもっと目を向けて欲しい、と吉田さんは願う。だからこそ、学生たちに伝えたい。「活字に飢えよ!」と。